今回は映画ではなくて最近はまっている本。だいたい毎年3月は新しいことを勉強していることが多く、去年は体内時計だったんですけど今年は脳科学。
正直、あまり脳科学は好きではありませんでした。なんか、とてもいい加減、もしくは不十分な実験(主にfMRI)からメディア受けする結論(男と女の性差とか)に論理が飛躍している研究が多いように感じるからです。
同じ著者によるこの2冊はそうした僕の脳科学に対するネガティブなイメージを払しょくしてくれました。とても興味深い脳科学の結果を紹介しつつ、それらの基になっている実験結果を丁寧に紹介してあって、分っていることとまだ分らないことを明確に区別しながら"fair"な記述に徹しているところに同じ科学者としてとても好感が持てます。
「視対象失認」や「カプグラ症候群」、「共感覚」の持ち主の話など興味深い話も満載ですが、これを読むと脳に関する我々の知見の多くは不幸なことに脳になんらかの損傷を負ってしまった人を対象とする研究から得られているようです。著者自身、細胞やマウスなどを対象としたミクロな分子生物学的知見と人間の感情といったわれわれの感じる現象との間の理解に大きなギャップがあいてしまっていることを認めています。今後、この中間領域の実験、測定技術の進展があれば脳科学は大きく飛躍するのかもしれません。
ちなみにタイトルは両冊とも
「The Accidental Mind」 → 「つぎはぎだらけの脳と心」
「The Compass of Pleasure」 → 「快感回路」
と直訳ではなくて苦心の跡が見えます。読むとなるほどと感じるうまい訳です。
一冊目の「つぎはぎ~」のほうが脳に関する幅広い話題を取り扱ってます。脳がいかにその場しのぎの、場当たり的な進化の結果であるかというのが主題ですが、男性と女性の能力の差とか宗教や夢に関する記載もとても面白いです。しかし、もし、1から知的生命体の脳を設計し直したらもっとコンパクトで省エネな脳になるんでしょうね。他の星に原始的な生物から進化した生物がいたらやっぱり人間みたいに脳が肥大化してるんでしょうね。
2冊目は「報酬回路」に関する知見に特化してます。ドラッグやセックスであれ、慈善事業やランニングであれ、人間が気持ちいと感じて依存症になってしまうミクロな機構は同じであるということのようです。1冊目でまだ実験途中であるとなっていた女性のオーガズムに関する研究なんかも紹介されてます。男性ほど単純ではないようです。
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